ミステリアスなユージーン
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「大女将は……苦労人なんです。創業四百年の老舗呉服店に嫁いだ大女将は、それはそれは先代の大女将に辛く当たられて……。きっと大女将は、自分の代でなにか大きな事を成し遂げて私達にこの呉服桜寿を繋げたかったのだと思います。その足掛かりである関東進出をかけた第一店舗のデザインを岩本菜月さんが手掛けてくださって……大女将はその店内の美しさに圧倒されていました」

NTビルディングの一階店舗を任されている次男の妻……若女将は更に続けた。

「実は家具入れの日、アクシデントが起きたんです。向かい隣の漆器店の商品搬入日とこちらの家具入れが重なってしまって……。気になさらない方もいらっしゃるでしょうが、私共は店柄、縁起を重んじますので家具や品、あるいは嫁入り道具などを乗せた車をバックさせたり予定よりも遅らせる事を非常に嫌いまして……。創業年数はあちらの方が長いし、これから御近所としてのお付き合いもありますから、あまりこちらの我ばかり通せません。……でもこちらも創業以来、荷車を後退したり遅らせたことは一度も有りませんし厳しい状況でした。あちらもあちらで格式高く伝統を重んじるお店で、荷車の後退や時間の変更は出来ないと仰られて……」
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