ミステリアスなユージーン
なんだとっ?!

「ちょっと佐渡君っ、なによその言い方っ」

軽蔑したように私を見下ろし、ようやく腕を離した佐渡君を私はグッと睨んだ。

それからツンと横を向く。

「はしたなくて悪かったわね。けど私が誰に欲情しようが佐渡君に関係ないでしょ」

「やっぱり欲情してたのかよ」

聞こえるか聞こえないかのギリギリの大きさで呟くところがまた癪に触るっ!!

しかも舌打ちするなんて!

突然避難されたことに腹が立ち、私は彼を言い負かしてやろうと敢然と口を開いた。

「あのね、私は今フリーなのよ。しかも私も安藤君も大人なのよ、オ、ト、ナ!一夜を共にして何が悪いのよ」

「……」

佐渡君が唇を引き結んだ。

もしかして、私の勝ち?!そう思った瞬間、

「安藤君で満足出来るんですか?新庄課長とは随分タイプが違いますが」

ビクッとした。

バレていたと思うと、全身から血の気が引く思いがした。

やだ、へんな誤解は勘弁してほしい。

私は別にそんなんじゃ……課長を好きだとかそんなんじゃ……!

今思えばこのときの私は、三十路の女が二十歳の女の子に恋人を盗られたとかいう、惨めな感情を持たれたくなかったのかも知れない。

私は身体中からありったけの『虚勢細胞』を集めると、ニヤリと笑って佐渡君を見あげた。
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