ミステリアスなユージーン
もがこうにもガッチリと身体を抱かれ、身動きがまるで取れない。

確かに私はイケメンが好き。

でも、こんなの……屈辱でしかないじゃないの!

こ……殺してやる、降ろされた直後に葬ってやる!

私の全身全霊から駄々漏れしている殺意を感じ取ったのか、佐渡君がこちらを見て早口で言った。

「くれぐれも言っておきますが、降ろした途端暴れないでくださいよ」

佐渡君は一旦言葉を切ってから、私の眼を覗き込んだ。

それから再び言葉を続ける。

「……いくら俺がハイスペックでも、泣きながら怒る女性は手に余りますから」

は?

……泣きながら……?

「なに言ってんの、私、泣いてなんか、」

「泣いてますよ」

佐渡君が私を見つめた。

「あなたの心が泣いてるんですよ。その辛そうな顔が何よりの証拠です」

その声がやけに低くて優しかったから、私は食い入るように佐渡君を見つめた。

私の……心が……。

「いいですよ。誰にも言いませんからもっと泣いても」

佐渡君の言葉を聞いた後、私はゆっくりと眼を閉じた。

自分の心と向き合う為に。
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