ミステリアスなユージーン
それと同時に着信音が止まる。

それから驚く私のすぐ脇に屈むと、なんと佐渡君は私を抱き上げて素早く体勢を整え歩き出した。

はあっ?!

「やめてよっ!何考えてんの、おろしてっ!」

「自宅まであと数分なのでおとなしくしてて下さい」

「おとなしくなんかするわけないでしょっ!おろさないなら今よりもっとデカイ声出すわよっ」

私の金切り声に佐渡君が顔をしかめた。

「壊れたヴァイオリンみたいな声を出さないで下さい。耳が痛い」

「あんたがこんなことするからでしょっ!おろしてっ!誰かっ、誰か助け、っ……んーっ!」

そこまでしか言えなかった。

だって急に佐渡君の顔がドアップになり、私の唇が塞がれたからだ。

その清潔そうな唇で。

なんでっ!!

キスをしているというのに甘い雰囲気など一切なく、私は眼を見開いて佐渡君を凝視した。

一方佐渡君は冴え冴えとした瞳で私を見据えている。

……こ、こんな冷えきった顔でキスするって何!?

「今度騒ぐと舌入れますよ。入れられたいなら叫んでいいですけど」

驚く私からようやく唇を離すと、佐渡君は低い声で囁くようにそう言った。

「…………」

それから、ピタリと口を閉じた私を見てフッと口角を上げる。

「なんだ……残念」
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