ミステリアスなユージーン
 「……そうか。その後は?」

……え?

課長が私に一歩近づいた。

距離がやけに近い。今まではオフィス内では一定の距離を保っていた。

態度も。物理的にも。

なのに課長はゆっくりと手を伸ばすと、私の頬を手の平でフワリと撫でた。

オフィスの皆は半数が出払っているし、残っている人間も慌ただしく仕事に取りかかっていて、そんな課長に気付いていない。

思わず一歩下がった私に、課長が早口で告げた。

「菜月、話があるんだ」

「時間です、行きますよ」

「いたっ!」

グイッと後ろから髪の毛を引っ張られて、私は自分の意思とは関係なく仰け反った。

それからそのまま腕を引っ張られた時、佐渡君が課長に口を開いた。

「課長、呉服桜寿へ行ってきます」

「……分かった」

∴☆∴☆∴☆∴

「ちょっとっ!凄く痛かったんだけど!髪は女の命なのよっ?」

エレベーターを待つ間に私が佐渡君を睨むと、彼はフン、と鼻をならした。

「オフィスでイチャつくから目を覚まさせてあげたんですよ」

「だったら課長にやればいいじゃん!」

「リーチが届きませんでした」
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