ミステリアスなユージーン
「…………」

駅の改札を抜けて最寄り駅の沿線ホームに足を進めながら佐渡君は私を見たけれど、なにも言わなかった。

「今日は凄く進んだね!佐渡君の用意してくれた資料が見やすかったし、職人さんも連休の間に頑張ってくれるからかなり期待できるわ。大女将のために頑張らないとね」

やって来た電車に乗り込んで、発車したと同時に私は佐渡君を見上げてニッコリと笑った。

すると佐渡君は窓を見ながら静かな声で言った。

「……家まで送ります」

そう言った佐渡君が真顔だったから、私は更に笑った。

「冗談でしょ?佐渡君の駅のが二駅も手前だよ?私なら平気。佐渡君もそのまま帰って休んで」

暗い窓ガラスに写った佐渡君の顔は相変わらず無表情だから、私は少し心配になって眉を寄せた。

「ちょっと、大丈夫?何だか疲れてるみたいだけど」

「……別に」

別にって……別になんなんだ。

……もしかして、また機嫌が悪いの?

電車内の混み具合は激しく、ドアの窓ガラスに身体を預けている佐渡君はとても物憂げ……というか、気だるげだ。

そういえば、私の徹夜に付き合ってくれてからというもの、佐渡君も働きづめだしなぁ。
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