ミステリアスなユージーン
「……無理」

信じられないくらい声が震えた。

すぐに佐渡君が身を起こして私の眼を見た。

抱き締められていて涙が拭けない。

「……佐渡君とはもう寝ない」

滲む視界の中、私は佐渡君を見上げて笑った。

「変な期待をさせたなら謝る。でももう、あなたとは寝ない。熱がないなら帰る。じゃあね」

少し身をよじると、佐渡君の腕が解かれて距離があいた。

佐渡君は私を見たまま息を飲んでその場に立ち尽くしていたから、私は素早く荷物を持つと彼の脇をすり抜けた。

……バカだ。私は本当にバカだ。

後悔が渦巻き、それが縄になって胸を締め上げる。

夜道を歩きながら何度も何度も大きく息を吸い、それを吐く。

意外にも涙はすぐに止まった。

……大丈夫。この気持ちには気付かれていないから、このまま彼とは仕事以外で関わらないようにすればいい。

半年が過ぎたら彼はイギリスのSAグループに戻り、私達はもう二度と会うことはない。

私は早足で駅へと向かいながらもう一度大きく息を吸った。
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