金木犀の季節に
「奏汰さん!」
暴風にかき消されないように叫ぶ。
「花奏ちゃん」
目が合う。
無我夢中で奏汰さんの元へと駆け出した。
その二倍速で距離が近づく。
やがて、二人の間は一尺ほどとなり、私は抱きしめられた。
バイオリンを持ちながらも、ゆっくりと彼の背中へ腕を回した。
「だめじゃないか。こんなに濡れて、風邪ひくよ」
「奏汰さんこそ」
伝わる鼓動、にわかにかかる吐息。
そのすべてが、夢だったのなら。
覚めても、覚めなくても続く、長い夢だったのなら。