金木犀の季節に




街灯が灯り始めた道路をふらふらと歩き、家になんとか帰る。
まず、雨でびしょびしょになったセーターを選択かごに突っ込み、制服から部屋着に着替えた。

ベッドの上に座って、ビニール袋からバイオリンを出した。
その四本の弦のうち、G弦だけが浮き出ているかのように見える。
張り替えたばかりの柔らかい弦を一度撫でて、段ボールで出来た簡易防音室で、タイスの瞑想曲の練習を始めた。
気のせいかもしれないけれど、いつもより音の響きがいいような気がする。

もっと、もっと上手な演奏がしたい。
満足するまで弾いていたら、時計の針は九時を回っていた。



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