金木犀の季節に
ふと見上げた空は、紺碧色に染まっていた。
「ああ、もう時間がないや」
奏汰さんは立ち上がり、私に手を差し伸べた。
私はその手をとって、ベンチから立った。
「それじゃあ、俺、行かなきゃ……」
切ない。切ない。切ない……。
「花奏ちゃん、元気でね」
ふたりに距離ができていく。
小さくなる後ろ姿。
走馬灯のように駆け巡るいろいろな表情。
そのすべてに別れを告げる時がやってきたのだ。
「奏汰さん!」
叫んで、大きく手を振った。
「お元気で! また会おう」
遠くで頷くのが見えた。
ほっとして俯いて、再び視線を戻した頃にはもうその姿はなかった。