冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
なにやら二人の会話に緊張感が漂っているが、意味はよく分からなかった。
この温室の花は、そんなに価値があるのだろうか。

「今日のところは、これでおいとまするといたしましょう」

あくまで優雅な仕草で、リアネル・バートフィールドは踵をかえし、温室を後にする。

フロイラはクラウスの腕に閉じこめられたままだ。

「クラウス様・・・」
許しを請うべきだろうか。他人にたやすく手を取らせたことに。

逡巡するうちに、リアネルと入れ替わるようにリュカが温室に姿をあらわした。

「お許しください。小公爵殿が、どうしても上がって待たせて欲しいと仰せでしたもので」

「相手が相手だから、追い返すわけにもいくまい。俺の留守を狙ってきたな」

「応接間にお通ししたのですが、気づけば温室へ」

貴族の邸では、応接間と温室が近接しているのが一般的だ。花の香りが客の元へ届くように設計されており、この邸も例外ではない。

なるほどそれで温室へ、と腑に落ちたものの、リアネル・バートフィールドの存在自体はフロイラにとってさほど意味を持たなかった。

重要なのは、彼が話していたこと。
消えたルーシャのことだ。
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