冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
『七夜物語』は評判通りの素晴らしさだった。
舞台上で繰り広げられる夢の世界に、フロイラは時を忘れて見入った。

劇場を出るときは、足元がふわふわと浮いている心地だった。
陶酔状態で、頬が上気している。

馬車の中でさっそくクラウスに「素晴らしい劇でしたね」と話しかけた。

だが彼の態度は「そうだな」と素っ気ないものだった。

つまらなかったのだろうか・・・あんなに素晴らしい舞台が。

あるいは、なにか機嫌を損ねることでもあっただろうか。
オペラグラスを舞台ではなく、ちらちらと自分たちのテラス席に向けてくる人たちの存在には気づいていた。
それが気に入らなかったのかもしれない。もともと社交界が嫌いと言ってはばからないクラウスだ。

「お前はずいぶんと楽しそうだったな」
すいとこちらへ視線を向けてくる。

はい、と反射的に返すが、クラウスの声音に冷ややかなものを感じとり、先ほどまでの興奮は急速にさめてゆく。

なにか、自分は、いけないことをしてしまっただろうか・・・?
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