冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「まぁフロイラ様、旦那様が喜ばれることだなんて。旦那様をお慕いあそばせ。それが旦那様がいちばん喜ばれることですわ」

アンナ・マリーはなにをいまさらといった調子で、目を見開いた。

どうやら二人とも、冗談やからかいで口にしているわけではなさそうだった。

女学校でもの堅い教育を受けたフロイラは、うぬぼれはもっとも警戒すべき悪徳と教えこまれていた。

わたし・・・ちょっぴりうぬぼれてもいいのかしら・・・?


部屋の大きな姿見に、自分を映してみる。
今までフロイラがそこに探したのは、亡き母の面影だった。母に似ているからこそ、フロイラは自分の容貌を、ことに紫の瞳を好もしく思っていた。

初めて、本当の意味でそこに映る自分を見つめ、自分の容貌に客観的に評価をくだそうと、おずおずした一歩を踏み出した。

クラウスにふさわしい女性。
なんと大それたことを考えているのかと、自分の胸のうちにわいた感情に慄きながら。
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