冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
外に出るときは、万が一にもかつらが取れないように、サンボンネットをかぶせられあごの下にリボンで結び、顔にはおしろいをはたかれ、レースの手袋まではめられ、鏡に映る姿は我ながらどう見ても等身大の人形だった。

本来の姿はすべておおい隠され、黒い瞳だけが唯一自分のものだった。

夜がルーシャからクラウスに戻れるわずかな時間だった。
ふっつりと短い、赤と黒の入り混じった髪をした少年。レースやフリルは似合わない。

夜がずっと続けば男の子の姿のままでいられるのかなあ、そんなことを思いながら窓から夜闇にしずむ庭園をながめる。

母と数人の使用人以外、外部との接触はほぼ絶たれた環境にあったから、もちろん友達などひとりもいなかった。

そんなある日、その少女に出会った。

メイドと一緒に、馬車で町へ買い物へ行った帰りだった。

「奥様の好きなリコライス(甘草)のキャンディが買えてようございましたわね、ルーシャ様。でも奥様ときたら、キャンディを欲しがるなんて侯爵家にふさわしくないんじゃないかしらとか、またお気に病まれるんですから・・・」
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