冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
いつかは気づくだろうと覚悟していたが、フロイラは裏の小庭を見つけ、ふたたび想い出のなかのルーシャとたわむれるようになった。

肥大した自己愛のはてに、フロイラを狂気じみた児戯の道具にしようとした、リアネル・バートフィールドを撃退し、ようやく平穏といえる関係が訪れようになった。

なんの否定もない。
フロイラがいれば、人生は楽しく、世界は美しかった。

思えばこれまでは、何かに復讐するように生きてきた。

強欲で高慢な親族連中に、薄幸だった母の人生に、忍従を強いられた幼く無力な自分に・・・
フロイラに再会するまで、久しく声をあげて笑うことも忘れていた。

鶏が先か卵が先かだが、あの不遇の日々がなければ、フロイラに出会うことはなかったし、フロイラがルーシャに会いたい一心でこの邸に迷い込むこともなかったのだから。

彼女といればいつかは、過去を憎み呪うことをやめることもできるだろうと、そう思える。

だからーーー

過去の自分に負けたとは、断じて認めたくない。ここは引き分けとしておこう。

フロイラがあの小さな約束を憶えているなら、自分はそれを果たすだけだ。

夜明けの庭の、ふたりだけの秘密の場所で、彼女を待とうーーー
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