冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
その庭は、いつも暖かく明るい陽がさしている。
どんな重く苦しい現実も、この庭の光を翳らせることはない。

ルーシャ、お姉さま・・・

幼いフロイラは、シクシクと泣きながら歩いていた。
そうあの時も、自分は途方に暮れていたのだ。

ガラガラと近づいてくる馬車の音にも、脇へよけただけで顔を上げることはなかった。
けれど、馬車のほうが止まった。扉が開く音。

「あなた、どうしたの。なぜ泣いているの?」

かけられた声に、びっくりしてそちらを見上げて、フロイラは一瞬自分が泣いていたことさえ忘れてしまった。
馬車を降りてきた少女が、あまりにも美しかったから。

髪はおとぎ話のお姫様のようなブロンド、いや、もっと透き通って輝くプラチナブロンドの巻き毛。
白磁の肌に、くっきりと整った硬質な美貌。ピンと張った長い睫毛に囲まれた瞳は、艶やかに黒い。

歳は自分よりいくつか年上くらいと見えた。けれどその美貌は大人の女性も顔負けに完成されている。
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