冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
*    *    *


いっそ死んでしまいたい、という心境だった。あのまま犬に噛み殺されていれば・・・

けれど、そう思っただけで人は死ねない。
そして自分はもはや、勝手に死ぬわけにはいかないのだ。今度ばかりは。

それではただの恩知らずの恥知らずだ。

どうすれば・・・と思えば、結局のところリュカの言うように、クラウスに仕えるよりほか道はない。
自分になにができるとも思えないけれど。あんなにも完璧な家令がいる人に。

十日ほど前まで、世界は暗闇に塗りつぶされていたけれど。
今はどうだろう・・・

灰色、だろうか。周囲には濃く靄がたちこめ、相変わらず一条の光も見えない。


お姉さま・・・
心は過去に、いちばん幸せな記憶の中にさすらう。
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