冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
フロイラがいつもショーウィンドウごしにうっとりと眺めていた高価で精巧な人形よりも、さらに豪奢で美しかった。

そんな少女が、おそらくは泣いている自分を案じて声をかけてくれたのだ。

フロイラは腕に抱いた布人形のリリアを見せた。母がフロイラに似せて作ってくれた、黒い毛糸の髪と紫のボタンの目をした大切な人形だ。
それが今では、無残な姿に変わり果てている。

フロイラの母が入っていた療養所には、他にも滞在者がおり、たいていは身内や付き添いがともに暮らしていたが、子どもは少なかった。
たまたま、その時療養所にいた数人の子どもは、フロイラより年かさの男の子ばかりだった。
彼らが一緒に遊んでくれたり話し相手になってくれることはなく、せいぜいからかわれたり意地悪をされるのが常だ。

この日もそうだった。

フロイラが大事に抱いていたリリアを取り上げ、さんざん乱暴に扱ったあげく、泥水の溜まりに捨てたのだ。
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