お見合い相手は冷血上司!?
「あんたは本当に……。あぁ、もう! 言っても聞かないだろうから、先に帰らせてもらうね。でも、あんたも無理しないである程度で帰るのよ! わかった!?」

 綺麗なネイルアートを施した爪が、私の額を軽く弾いた。黙って頷くと、彼女は満足気な笑みを浮かべヒラヒラと手を振りながらオフィスを出て行く。

 残っていた数人の社員もみんな出て行ってしまい、オフィスは突然闇夜のような静寂に包まれた。鼻を啜(すす)った音さえも嫌に響いてしまい、居心地が悪い。

「コーヒーでも飲もうかな」

 ちょっと一息、と財布を片手に立ち上がると、視界の右端に黒い何かが現れた。

 途端に爽やかな柑橘系のような香りが鼻腔を擽り、追うようにやって来たほのかに香る甘さに誘われるように振り返ると――

「課長……」

 ――無表情のままこちらを見つめる課長が立っていた。
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