お見合い相手は冷血上司!?
「じゃあ、お気を付けて。お大事にされてください」

 軽く会釈をして背を向けると、「おい」と呼び止められて足を止める。
 振り返ると、彼は顔を顰めてこちらを見つめていた。

「どこへ行く。乗っていけ」

「何を言ってるんですか。課長は早く家へ帰ってください」

「いいから、乗れ」

 眉間にじわりと黒瀬川が浮かぶ。
 驚いて一瞬肩を跳ねさせるけれど、左右に首を大きく振って、唇を噛み締めた。

 怖いけれど、今日はこの圧に負けるわけにはいかない!

「いやぁー。仲が良いようで何より!」

 意気込んだところで突然割って入った呑気な声に、私はきょとんと目を丸める。

「会社の用事で近くまで来たから亜子がいるかと思って寄ってみたんだが、晴人さんもご一緒だったとは!」

 ガハハ、とよく通る笑い声が私の背中にぶつかった。その背には、一瞬で冷や汗が滲む。

 ……この声は、間違いない。
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