お見合い相手は冷血上司!?
「本当に鈴原くんはとても優秀だから、出来るならずっと仕事を続けていて欲しいよ! 今は女性も、バリバリと第一線で働ける時代だからね!」

 彼の言葉で、オフィス内の空気にピリッと緊張が走り、みんなの顔が見る見る間に私を気遣う苦い表情に変わっていった。

 その光景を横目に見て、まだ塞がりきらない古傷が鈍く痛み、思わず睫毛を伏せる。



「――木津さん」

 低く歪んだ声が静かに背中に突き刺さり、一瞬で先ほどまでとは比べ物にならないほどの張り詰めた空気に包まれたオフィスには、未だ軽快な音楽を口ずさむ木津主任の声だけが響く。

 こ、この気配は、間違いない……。

 冷たくなった背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと近付いてくる足音に全神経が集中させられた。

 全員の息を飲む音が、ここまで聞こえてきそう。

「あっ、黒瀬(くろせ)くん! 打ち合わせお疲れ様!」

 恐る恐る振り返ると、そこには――
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