お見合い相手は冷血上司!?
「いやぁ、知った仲なら、我々の下手な助け舟など要らぬお世話のようですね。亜子さん、このホテルには綺麗な庭があるんですよ。二人でゆっくり散歩でもいかがですか?」

 会長は、窓の外に視線を移した。
 横目に父を見ると、壊れた人形のように何度も首を縦に振っている。嫌だなんて言ったら、この場でも容赦なく牙を向いてきそうだ。

「……はい、ぜひ」

 私の答えを聞いて、父は汗をかいたアイスコーヒーのグラスを嬉しそうに手に取る。

「では鈴原くん、我々は退散するとしようか。亜子さん、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げてくれた会長に、慌ててお辞儀を返した。
 顔を上げると、父は余程課長をお気に召したのか、名残惜しそうに課長の手を固く握り締めながら挙句その手をブンブンと振り出す始末。

 課長は依然“よそ行きの笑み”を浮かべているが、その真意は全くといっていいほど分からないので、恐怖は増すばかりだ。
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