お見合い相手は冷血上司!?
「行こうか」

 降ってきた低い声に、思わず肩を跳ねさせる。
 コクリと頷くと、課長はすぐに背を向け、一人で先に行ってしまった。

「相馬会長、本日はありがとうございました」

「こちらこそ、どうもありがとうございました。亜子さんも知っての通り息子はあの性格ですから、ご迷惑をお掛けすると思いますが、ご縁がございましたらこれからもよろしくお願いいたします」

 会長は、遠くなる課長の背中を見つめながら、薄らとその目を細める。
 彼の頬は次第に緩み、その安堵したような柔らかな表情を見届けると、私は『失礼します』と丁寧に頭を下げて、課長の後を追って早足で歩き出した。

「亜子、くれぐれも失礼のないように!」

 背中に刺さった父の言葉は、誰にも見えない心の手で綺麗に床に叩き落とした。
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