お見合い相手は冷血上司!?
「あ、すまない。会社から電話だ。最後まで付き合えなくて本当にすまないんだが、あとは二人でお願い出来るかな?」

「えぇ、もちろんです。お忙しい中わざわざご案内していただきありがとうございました」

「本当にすまないね。また明日、時間が合えば話をしよう。鈴原さんも、ぜひ」

 課長が「喜んで」と返すと、鳴り出した携帯電話を片手に、榛原さんは来た道を戻っていく。
 ヨタヨタと転びそうな彼の背中を見送ると、課長は徐に歩き出した。

「榛原さん、わざわざ案内をしに来てくださっていたんですね」

「あの人、付き合いが良すぎるが、あれでも本社の広報部長だからな。普通なら広告会社のロケ地の視察について来たりするような立場の人じゃないんだが、何でも自分の目で見ておきたい性分らしい」

 この仕事は、頼まれたものを広めて終わりというわけではない。広告の善し悪しで、クライアントの利益やイメージが一夜で一転することもあるのだ。
 立場があるにも関わらず、プロフェッショナルな精神を忘れていない榛原さんは、長いものにも巻かれない課長が懇意にしているのも頷ける。
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