副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
軽く息を吐いて、副社長室をノックして莉乃はゆっくりと誠を見た。
真剣な表情でデスクに向かっている誠は、莉乃がはいってきたことすら気づかないようだった。

「副社長。ここに置きます」

少し大きめの声で副社長のデスクの離れた所にコーヒーを置くと副社長の返事を待った。
「ああ」
誠は集中しだすと、周りの声が聞こえていないようで、コーヒーの存在も忘れるぐらい没頭する。
無意識にこぼしたりしたら大変だ。

「副社長!」
すこし声を大きくした莉乃の声に初めて誠は顔を上げた。

「ああ。……悪かったね。ありがとう」
ニコリとさわやかな笑顔を向けた誠に、莉乃は軽く会釈をすると踵を返した。


(私にまでこんな笑顔を毎回向けて疲れないの?この人……。本当に嘘くさい笑顔。これに騙されてる女の人たちって気づかないの?この笑顔に……)

そんな事を内心思いながらも、副社長の部屋と続きになっている隣の部屋の自分のデスクに莉乃は戻った。

この約2年間、莉乃は誠を見てきてが、会社でも女の人の前でもこの姿勢を崩していないようだった。

同伴者の必要なパーティーの時に、何度か副社長室に女性が訪ねてくることがあるが、常にこの笑顔を絶やさない。

もちろん社員の前でも。

その笑顔ができた人間だからか、何か隠れた部分があるのか莉乃にはわからなかった。

(私には関係のない事だけどね)

莉乃はそう思うと仕事を再開した。

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