副社長には内緒！〜 Secret Love 〜
莉乃はそんな誠に気づくこともなく、手際そよく料理を運び準備しグラスに赤ワインを注いだ。
「お待たせ」

誠はその声にハッとし、不思議な感覚のまま席に着いた。

「すごいな、料理作れたんだ」

「バカにしてる？一人暮らしも長いし。でも食べてみないと味はわからないよ」
テーブルに並んだ料理をみて驚いたように言った誠に、莉乃もエプロンを外しながらフフッと笑うと席に着いた。

誠はそのエプロンを外すという行為自体初めて見た気がした。

「どうしたの？」
莉乃は誠の表情の意味がわからず、そっと声を掛けた。
「え？」

「えーと、なんというか不思議そうな顔してるよ。ご飯が珍しいの？」

「……確かに。あまりないんだ。人が自分のために目の前で食事を作ってくれて、一緒に食べてくれた記憶が。母親が亡くなってからはずっと」
少し言葉を選びながら言った誠に、莉乃は膝の上で手を組むと誠を見つめた。

「……お母さまいくつの時に？」
「12だった。癌で……」
「そうだったんだね」

莉乃は少し目を伏せ、少し考えてから誠に笑顔を向けた。
「こんな料理でよかったら、嫌じゃなきゃ食べて。お母さまの料理には到底かなわないと思うけど」

誠はぼんやりと莉乃を見つめた。その笑顔があまりにも眩しく綺麗に見えた。
母の事も家の事もいままでの彼女にも話したこともなかったし、別にずっと両親が不在だったことに不満があったわけでもなかった。
しかし、この温かい優しい雰囲気に誠は素直に言葉が零れおちた。

「ありがとう……」
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