名無し。
夢と現実の交差

知らないはず。

やっと、やっと君にとどいた。

手をのばし君にふれた。

____はずだった。

ふれたられ距離とかじゃなくて、ふれている。

なのに、ふれていない。

神経、おかしくなった?

でも動かすことできる。

…え?もしかしてあたし、死んじゃったとか?

でも、体はあるし、死んだ覚えもない。

もしかして、死んでいるのはあたしじゃなく

て…君?

宙をきる手を見つめていたあたしはふと気づいた。

____"君"って、誰?



____パラッパラッ

静かすぎるこの部屋には不自然なほど大きく

響く紙をめくる音。

真っ白な紙。

何か、書かれていたはずなのに。何か、大切

なことが。

どうして、なにも覚えてないの。

どうして、なにも覚えてないのにこんなに胸

が苦しいの。

何が悲しくて、何がこんなに苦しくさせるの

か、なにも分からないのに、どうして、こん

なにあたしは今、必死なの。

____バサッ

大きく響く音。

あたしは真っ白な紙を乱暴に床に落とした。

「っうぅっ、…」

雫が真っ白な紙を灰色に染めていく。

なんで、なんであたし、こんなに必死なの。

なんで、あたし、泣いてるの。

疑問は溢れかえるばかりなのに答えは1つ

も出てこない。

この想いは行く宛もなく、ただあたしの中

で迷子になって居場所を探す。

あったはずの、何かをひたすら探しても、

居場所はみつからない。

机の引き出しから日記を取り出し開いてみ

る。

小学校の頃から毎日書いている日記。

きっと、これなら…。

少しの期待を胸に1ページずつ、丁寧にめ

くる。

「…あ。」

か細く、情けない声が口からこぼれた。

さっきの紙と同じように灰色のしみができ

た。

次から次へといくつもしみをつくる涙は止

まることを知らない。

やがて紙は破れ儚く落ちていく。

あたしの想いも、儚く落ちていくようで思

わず目を反らした。

「どうして!」

声にしても誰も答えてくれはしない。

むしろ虚しさばかりが津波のごとく返って

くる。

分かっていたのに、実際にしてみると想像

以上に寂しさが募るばかりだ。

毎日書いていた日記はある日を境にピタリ

と止まっていた。

それでも、パラパラとページをめくる。

お願い、何か、何でもいいから、何か…。

ほんの少しの期待をもさっき打ち砕かれた

というのにあたしは往生際が悪いらしい。

でも、そんな短所だって役に立つことはあ

るんだ。

思わず手を止めて目を見開いた。

「何で…」

思わず声が出た。

そこには日記が書かれなくなってから1

ヶ月後の日付。

そして、そこには…


『好きだよ。これを見る頃のあたしはき

っとまた…。

けど、忘れたとしても、好きだよ。

たとえ忘れられた未来であってもあたし

は君のこと 』


ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたように苦

しい。

鼓動が速くなり、呼吸が乱れる。

涙の跡が痛々しいく、震えるような字。

そして、何より。

最後。

"君のこと"の後に。

愛してると書いて消されたような跡。

その部分を指でなぞる。

ドクン、ドクンと、脈が加速する。

「あい、してる…。」

声が震える。

言葉では表せないような、気持ちが押し

寄せて、苦しい。

あたし、きみのこと、愛して____。

ふと、視界が真っ暗になった。
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