僕と家族と逃げ込み家
 ◇◇◇ ◇◇◇

二胡の件も恵の件も、進展のないまま時だけが刻々と過ぎて行く。

「何だかなぁ、無性に無力を感じる」
「スーパー・ジーニアスが何を言ってんだぁ? テスト、余裕だろ?」

横を歩く笹口が長い腕を天に突き上げ、ウーンと伸びをする。

「期末テストも明日で終了! あとは夏休みを待つだけだ」

真っ青な空に向かって、「夏だぁぁぁ!」と笹口が雄叫びを上げる。
全く、こいつは……と溜息が出る。

「哲ちゃん、テストのことじゃないと思うよ。春君、もしかしたら二胡ちゃんのこと?」

美山が綺麗な眉間に皺を寄せて心配そうに訊ねる。
あぁ、流石は美山。よく分かってらっしゃる。

「……それもあるんだけど、ちょっとな」
「うん? 何か意味深だな」

商店街のど真ん中で、笹口が「吐け!」とヘッドロックを仕掛けてくる。

「やめろ! こんなところで!」
「そうだよ、哲ちゃん、往来で迷惑だよ」

美山がやんわりと間に入るが、笹口のヘッドロックは解かれない。

「じゃあ、言え、何があったんだろ?」
「ギブギブ、アーッ、もう! 言うよ、だから、離せ!」

「よかろう」と笹口が偉そうに言いながら腕を外す。
まったく、と僕は髪を直しながら、顎でコンビニの前に置かれた椅子を指す。
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