僕と家族と逃げ込み家
コチコチと丸い目覚まし時計の秒針が無駄に過ぎていく。

「お前、本気の本気で言っているのか?」

押し黙る恵にとうとう根負けして言葉をかける。

「勿論!」

力強く頷き、真剣な眼差しで僕を見る。
幸助もだが、恵も一度決めたことは絶対に曲げない。

二人共、決めたが最後どんな困難が待ち受けていても目的目指して突き進む……ザ・サムライみたいな奴だ。

そんな二人の一生懸命さが、時々、僕は羨ましくもある。

なぜなら、僕の辞書には『一生懸命』という言葉がないからだ。だから、一生懸命に何かをやったことがない。

『お前ってさぁ、飄々と何でも起用に熟して満足いく結果を出しちゃうんだよな』

周りから毎度言われる言葉だ。
まぁ、そこが超天才と言われる所以なのだろうが……。

だからかもしれない。思い通りにならないあいつらと接するのが楽しいのは。予想の斜め右上をいくから。

「受けるのは自由だ。だが、受かる保証はない。それでもいいのか?」

気付いたら、そんなことを言っていた。

「うん!」と恵は頷くと、「滑り止めも……受けるから」とちょっと弱気な発言をする。

何か笑える。恵が、じゃなくて僕自身が。思い通りにならない恵に手こずりながらも、この状況を楽しんでいる自分がいるからだ。

「で、何で濱永なんだ?」

万が一入れたとしても、まぁ、苦労するだろうな。あの高校はそういう学校だ。

「……行きたいから」

そりゃあ、濱永に入れば拍が付く。だが、恵はそういう奴じゃない。

「だから、行きたい理由を訊ねてるんだ」
「……今はまだ、言いたくない!」

グッと口を一文字に結ぶ。まるで二胡だ。
こうなったらお手上げだ。仕方なく勉強を再開する。
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