nocturne -君を想う夜-
こんなに切なくなることなんて、久しぶり。
こんなにもまだ、あなたを想っているなんて。
きっと月には心を惑わす不思議な効能があるんだ。
こくり、喉に通すとそれはほんのり甘く、苦く、刺激する。
ああ、そうだ。
思い出した。
『気を張ってばかりいたら、本当の自分がいつかどこかにいっちゃうよ?ほら、俺の前でくらい、気を抜いていてよ』
彼はあの言葉のあと、こう言ったのだ。
ねぇ、知らなかったでしょう?
私、あなたの前ではちゃんと“自分”でいられたのよ。
それがあなたから見たら“作られた私”に見えていたのかもしれないけれど。
私は私で、ちゃんとあなたに甘えていたのよ。
『大丈夫よ』
私が発したその言葉を、あなたはきっとずっと勘違いしていたのでしょう。
“大人だから”大丈夫、じゃない。
“あなたがいるから、ちゃんと甘えているから”大丈夫、だったんだよ。
半分になったグラスを覗くと、その向こうにはほんのり色付いた世界。
まるであの頃を切り取っているかのような、セピア。
手にしている“今”は、私から掴んだもの。
掴んだその手に力を込めて、グッとグラスを傾けた。
空になったグラスと共に、立ち上がると、この部屋に似合わない、けれどずっとそこにあるからか、全く違和感を感じさせないレコードプレイヤーの電源を入れた。
すぐ脇に置いてある数枚のレコードの中から、探すわけでもなく取り出した一枚のレコード。
きっと誰もが耳にしたことのある、この曲が、彼と私を結び会わせた。
ジャケットカバーをひとなですると、愛しさが込み上げる。
これは。
この曲は、彼と離れた今でも私の大切な一曲だ。