nocturne -君を想う夜-

歳は同じくらいで、私が彼女に持つ妙な親近感を、もしかしたら彼女も持っているのかもしれない。
いや、あるいは、小さな優越感だろうか。
人間と言うのは優越感を重ねることで自分の存在意義を確固たる物にしたがる生き物だ。
私だって例外ではない。

この時間まで働いてるって言うと、子供は手のかからない頃合いなのだろうか。
家庭に束縛されたくなくて働きに出ているのか、生計の足しにしているのか。
まさかコンビニ店員で生計を立てている独身女性ではあるまい。
ちらりと手元を見ると左手薬指にはシンプルな指輪があり、ゲスの勘繰りは当たらずとも遠からずといったところだろう。

私は選んでこの人生、あなたも選んでその人生。
家庭だけが女の幸せとは限らないでしょ、なんて、強がっては言えても、かつての私だって“いつか”を夢見ていたことに否定はできない。
それでも私は私でいるしかできないし、今を不幸とも思わない。
自由気ままな“おひとりさま”ライフだって悪くはない。
家庭に入ってしまえば失うもの。
おひとりさまでは手に入れられないもの。
何に比重をおいて、人と比べて優越感を得るのか、なんて馬鹿げてると言えば馬鹿げてる。
自分は自分だと言える強さを持つには弱さを受け入れる時間が必要なんだろう。

入り口にたむろしていた若者達は私が買い物をしている間に解散したらしく、そこには空き缶や食べ散らかした紙くずが落ちていた。
いつか彼らも大人になったときに、過去を振り替えるときが来るはずだ。
“あの時は若かった”と。
けれど同時に、きっと思うだろう。
今の私が思うのと同様に、さほど変わりの無い自分を。
残されたゴミを、すぐ脇のゴミ箱に入れて私はため息をつく。

コンビニを背に私は再び歩き出した。
すべて受け入れるほどに人間ができているわけでもないけれど、それに気づくくらいには、私もそれなりに時間を重ねたのだろう。


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