nocturne -君を想う夜-
たどり着いた小さなアパートのさびれた階段を上ると、音の無い静かな空間には、私のたてる、かんかんかん、という足音だけが響いた。
もう何年も住んでいる築何十年のこのアパートにはセキュリティと呼べるような近代的なものは無いので、頼りになるのは扉についている鍵ひとつ。
物騒な世の中、そろそろ考えものかもしれないと思いつつ契約更新はまだ1年も先のことでその頃にはそんなことも忘れてしまうのだろう。
ガチャリと解錠して重い扉を開くと、明かりの無い我が家で出迎えてくれるのはいくつかの観葉植物。
暗闇でも慣れた足取りで廊下を歩き、パチ、と照明をつけるとほんのりと暖かさが……、なんてことはあるはずもなく。
がらんどうの空間は、やはりどことなく寒々しい。
ローテーブルに買い物袋を置いて、荷物をベッドに放って部屋を暖めるためにセラミックヒーターの電源を入れようと狭い部屋を動き回る。
「暖房、暖房っと」
独り言が増えるのは年のせいかと問われれば、そうかもしれないと言わざるを得ないのかもしれない。
はたまた、独り身のせいかと言われれば、それも否めない。
どんなに足掻いたところで自分の歳は若返らないし、独身であるという事実も変えられない。
つまるところ、相乗効果でより増えているといったところだろうか。