nocturne -君を想う夜-
「さて。頂きます、か」
パチン、と手を合わせてその命に感謝の意を捧げると、せっせとご飯を食べていく。
食事時にテレビや音楽をつける習慣がなかった家庭で育ったので、独り暮らしを始めてからもその習慣はなく、音の無い部屋で、ただ静かに食事を続ける。
食事と一緒に買ってきたお酒を飲むことも考えたけど、疲れた体ではそのまま眠りこけてしまいそうで、止めた。
それならば、寝ても大丈夫な環境を整えてから飲んだ方が気が楽だ。
思うがままに生きられないというのは、少し窮屈に感じることもあるけれど、それは自分の性分というものだし仕方がない。
温かいお茶を体にいれるとようやく体から力が抜けていくのを実感する。
肩に手を回すと自分でほぐすように揉む。
随分と肩肘を張っていたようで固くなっている。
凝り固まってしまっているのは体だけではなくて心も同じなのかな。
小さく溜め息がでた。
『肩ガチガチじゃんか。頑張るのは良いところだけど、頑張りすぎは良くないところだよ』
脳裏に浮かぶのは、かつてこの部屋に居た人の言葉だ。
いつも隣に居てくれた人。
随分歳は離れていたけれど、同じ目線で一緒に居られた人。
自分だって疲れているだろうに、私の肩を揉んで、一緒にお茶を飲んで同じ時間を過ごしたあの人のことを、あの時間を不意に思い出す。