nocturne -君を想う夜-

幸せ、だったな。
彼といた時間は、とても幸福だった。
口角が緩く上がるのを感じる。
穏やかに感じられるほど、彼と離れてから時間は流れた。

有り余る幸せを噛み締めていたあの頃には、その幸せには気づけていなかった。
年齢差や世間体を気にしては縮こまっていたときもある。
彼の持つ眩しい未来に目を逸らしたくなった日もある。
切り出された別れだけれど、彼が離れていく原因を作ったのは私だ。
そしてふたりそれぞれ別の道を行く今を作った。
それを彼のために身を引いた、だなんて身勝手なことは言わない。
ただ自分が勝手に引け目を感じて辛かっただけだ。
あれから恋人と呼べる人はいない。
年齢的なものも手伝って、色々と躊躇してしまった……というのは言い訳なのかもしれない。
結局のところ、彼以上に私の心を動かせる人と会わなかった、それだけのことだろう。

彼がいなくなってから、随分経った。
本当に、随分と。
どうして、今頃になって思い出してしまうのだろう。
今更のことだというのに。
私と彼の人生が交わることはもう、無いとうのに。

「今日は、飲むぞー……」

ほんのり、湿っぽくなった気持ちを誤魔化すように呟いて、立ち上がった。



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