nocturne -君を想う夜-

食器を片付けて、その勢いのまま明日の準備を整えていく。
目覚ましのセット、着る服の確認、そして、朝イチで必要な書類。
少し手をつけようと持って帰ってきていたその書類をさっと仕上げて、カバンに仕舞い込む。
これだけの事なら会社で残業した時間にすべて終わらせても良かったのだけれど、ちょうど警備員さんが見回りに来て気まずい雰囲気がふたりを包んだのだ。
時代の風潮か今日は残業する人もいなくて、警備員さんの視線が“まだ残業するの?”と暗に言っていて、なんとなく「今、帰るところですので」と言わざるを得なかった。
残業を減らしても仕事は減らないわけで、結果としてはサービス残業や持ち帰り仕事が増えるだけでもちろんお給料はつかない、というのは以前より処遇が悪くなっている気もするけど勤め人故に何も言えない。

「さて。後はお風呂、か」

コンタクトを外して、身を包んでいた服を脱ぎ、お風呂場の扉を開けると暖かい空気に包まれていた。
お風呂場へと足を踏み入れるところで思い出し、今のお気に入りの入浴剤を湯船に入れた。
湯気に乗り、ゆったりと爽やかな柑橘の香りが狭いお風呂場を包む。
ホッと息を吐きながら、ゆっくりとメイクを落としていくと、鏡に写るのは素顔の自分だ。
作り上げていた自分の仮面が、剥がれていく。

女にとっての武器が涙なら、メイクは仮面だと思う。
弱い自分を隠してくれる。
それを外した今、目の前の鏡に写る自分は情けなく頼りなく、そんな表情で。
嘘を写し出さない鏡には、真実、自分だけが写されている。
本当の自分は、こんなにも弱くて脆いのか、と、思い知り心が押し潰されそうだ。
湯気で曇っていく自らの顔から目を反らして身を清めると、勢いよく湯船に身を沈めた。


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