意地悪な彼の溺愛パラドックス
「残念ながら、大好きです」
「バカヨも物好きだな。こんな俺のどこがいいの?」
彼の問いに首を傾げると、ハラハラと髪が流れる。
あなたの足枷を解いたこの髪は、凛々しくて綺麗。
私は少し目にかかった前髪をゆっくりとどけて言った。
「あなたも、自分に負けたくない努力家だから」
だから、私も放っておけない。
「私は柏木マネージャーに鍛えられたので強いですよ。つらいときは寄りかかるので、あなたも寄りかかってほしい」
幸せにされるんじゃない。
守られるんじゃない。
「幸せはひとりで作るものじゃない。私はふたり一緒の幸せを、貪欲に望みます」
勇ましい私が脱力する彼を押し倒すのは簡単で、耳もとに両手をつき、私だけをちゃんと見ることができるようにと覆い被さって影を作る。
見開いた彼の瞳に私を映して、ニヤリと口角を上げた。
そして、触れるだけのキスをする。
「不服です。頼ればいいのに」
一センチにも満たない距離で、どこかで聞いたセリフをそのまま返すと、彼の驚きは緩い瞬きの後、のどやかになった。
「俺ね。かよの強がりなところも好きだけど、何気なく俺のことを気づいてくれるところに惚れたんだ」
「えっ」
意表を突かれポッと頬を赤らめた私は、照れ隠しに腕を立て距離を取る。
「さっ、先に見透かしたのはそっちでしょ」
「そうなのか?」
クスクスと笑いながら、ゆったりと私の頬に伸ばしてきた彼の両手は、髪の間を縫い私を引き寄せた。
穏やかに微笑む彼は、きっと大丈夫。
今度は、見透かされた彼が虹を見るばん。
「これからは遠慮しないから」
「はい!」
陥っているのは愛に対する執着心。
もう貪欲に、幸せを望めばいい。
熱をおびて絡まる視線は恋を越える。
十五センチの誘惑に負けて、もう一度キスをした。
満面の笑みでうなずいた私の笑窪をつつくと、妖しげに口角を上げる彼によって形勢は逆転する。
「覚悟はいい?」
「え? いや……、そっち?」
「当然」
わずかに引いた私の隙をついて起き上がった彼は、態勢を崩す私の身体を支えてベッドに押し倒す。
私がしたように耳もとに両手をつき覆い被さると、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「お前のこと、怖いくらい大好きだ」
悪寒にも似た波がゾクリと胃の中から押し寄せる。
彼は鋭い目つきを前髪の隙間から覗かせて、焦れるため息をつく私の髪先に唇を寄せた。
長さのないそれは寄るにも掬うにも妙に近くて、私は彼の胸を押し返しながらビクビクと身を縮こまらせる。
そんな私の耳もとで、くすぐるように逃げ道を示す彼はズルイ。
「かよ、どうする? 逃げるなら今だよ」
「せっ、せっかく攻略したのに、逃げるわけないじゃないですか」
「いいんだな? もしもお前のことを傷つけたとしても、お前が嫌だと言っても、俺もう離してやれないからな」
「遼くんこそ、二言はないですか?」
「ずいぶんと強気だね」
そう言っておかしいくらい気持ちが高ぶっている私の、ドキドキと脈打つ心臓に手をのせた彼が、ククッと笑みを噛んだ。
「バカヨ、緊張しすぎ」
「違っ、これは交感神経が!」
「素直に言えば優しくしてやるのに」
「……そこは信用ならないです」
「お前がツンツンしてるから致し方なく。本当は優しくしたいんだぞ」
私のように恥ずかしさに顔をゆがめることもない余裕は、年の功かタチが悪い。
しかし心臓が張り裂けそうなのは私だけではなかったのだと、素肌を合わせて彼の胸の高鳴りを知る。
「なんだか、遼くんが知らない人みたいでドキドキする」
そう素直に言い直して見つめると、私のほてりが伝染した彼は「やっぱり優しくできないかも」と顔をゆがめた。
それから首筋をたどる彼に、淡い桃色の花が咲く予感に頬を染めたのは生理現象。
春の嵐の爪痕に感じるのは新たな芽吹き。
過去の痕を消し去るよりも、上書きしようと爪を立てる。
髪先から身体の芯まで感じる彼のブレスに、息つぎなんていらない。このまま溺れてしまえばいい。
「愛しすぎて息をさせたくないくらいだ」
触れる唇が愛しい人だけのために音を鳴らし、無邪気に酸素を奪う。
それは、カーテンの隙間から射し込む朝陽を浴びて奏でるラブソング。
好きがこぼれるくらい、大好きでたまらない。
「バカヨも物好きだな。こんな俺のどこがいいの?」
彼の問いに首を傾げると、ハラハラと髪が流れる。
あなたの足枷を解いたこの髪は、凛々しくて綺麗。
私は少し目にかかった前髪をゆっくりとどけて言った。
「あなたも、自分に負けたくない努力家だから」
だから、私も放っておけない。
「私は柏木マネージャーに鍛えられたので強いですよ。つらいときは寄りかかるので、あなたも寄りかかってほしい」
幸せにされるんじゃない。
守られるんじゃない。
「幸せはひとりで作るものじゃない。私はふたり一緒の幸せを、貪欲に望みます」
勇ましい私が脱力する彼を押し倒すのは簡単で、耳もとに両手をつき、私だけをちゃんと見ることができるようにと覆い被さって影を作る。
見開いた彼の瞳に私を映して、ニヤリと口角を上げた。
そして、触れるだけのキスをする。
「不服です。頼ればいいのに」
一センチにも満たない距離で、どこかで聞いたセリフをそのまま返すと、彼の驚きは緩い瞬きの後、のどやかになった。
「俺ね。かよの強がりなところも好きだけど、何気なく俺のことを気づいてくれるところに惚れたんだ」
「えっ」
意表を突かれポッと頬を赤らめた私は、照れ隠しに腕を立て距離を取る。
「さっ、先に見透かしたのはそっちでしょ」
「そうなのか?」
クスクスと笑いながら、ゆったりと私の頬に伸ばしてきた彼の両手は、髪の間を縫い私を引き寄せた。
穏やかに微笑む彼は、きっと大丈夫。
今度は、見透かされた彼が虹を見るばん。
「これからは遠慮しないから」
「はい!」
陥っているのは愛に対する執着心。
もう貪欲に、幸せを望めばいい。
熱をおびて絡まる視線は恋を越える。
十五センチの誘惑に負けて、もう一度キスをした。
満面の笑みでうなずいた私の笑窪をつつくと、妖しげに口角を上げる彼によって形勢は逆転する。
「覚悟はいい?」
「え? いや……、そっち?」
「当然」
わずかに引いた私の隙をついて起き上がった彼は、態勢を崩す私の身体を支えてベッドに押し倒す。
私がしたように耳もとに両手をつき覆い被さると、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「お前のこと、怖いくらい大好きだ」
悪寒にも似た波がゾクリと胃の中から押し寄せる。
彼は鋭い目つきを前髪の隙間から覗かせて、焦れるため息をつく私の髪先に唇を寄せた。
長さのないそれは寄るにも掬うにも妙に近くて、私は彼の胸を押し返しながらビクビクと身を縮こまらせる。
そんな私の耳もとで、くすぐるように逃げ道を示す彼はズルイ。
「かよ、どうする? 逃げるなら今だよ」
「せっ、せっかく攻略したのに、逃げるわけないじゃないですか」
「いいんだな? もしもお前のことを傷つけたとしても、お前が嫌だと言っても、俺もう離してやれないからな」
「遼くんこそ、二言はないですか?」
「ずいぶんと強気だね」
そう言っておかしいくらい気持ちが高ぶっている私の、ドキドキと脈打つ心臓に手をのせた彼が、ククッと笑みを噛んだ。
「バカヨ、緊張しすぎ」
「違っ、これは交感神経が!」
「素直に言えば優しくしてやるのに」
「……そこは信用ならないです」
「お前がツンツンしてるから致し方なく。本当は優しくしたいんだぞ」
私のように恥ずかしさに顔をゆがめることもない余裕は、年の功かタチが悪い。
しかし心臓が張り裂けそうなのは私だけではなかったのだと、素肌を合わせて彼の胸の高鳴りを知る。
「なんだか、遼くんが知らない人みたいでドキドキする」
そう素直に言い直して見つめると、私のほてりが伝染した彼は「やっぱり優しくできないかも」と顔をゆがめた。
それから首筋をたどる彼に、淡い桃色の花が咲く予感に頬を染めたのは生理現象。
春の嵐の爪痕に感じるのは新たな芽吹き。
過去の痕を消し去るよりも、上書きしようと爪を立てる。
髪先から身体の芯まで感じる彼のブレスに、息つぎなんていらない。このまま溺れてしまえばいい。
「愛しすぎて息をさせたくないくらいだ」
触れる唇が愛しい人だけのために音を鳴らし、無邪気に酸素を奪う。
それは、カーテンの隙間から射し込む朝陽を浴びて奏でるラブソング。
好きがこぼれるくらい、大好きでたまらない。