闇喰いに魔法のキス《番外編》
緊張している私とは裏腹に
ロディはさらり、とした雰囲気で他愛のない話を続けた。
…本当に、飲むだけだったのかな。
ふと、そんな疑問が湧く。
私が飲みたいって言ってたワインが手に入ったから、勧めてくれただけ?
それなら、どうして来る時に手を繋いだんだろう。
ロディを見ると、彼もあまりワインを口にしていないようだ。
…何を考えているのか、分からない。
お店にいる時と変わらない、いつも通りの会話をしていると
時計の針は、いつの間にか十二時を指そうとしていた。
「そろそろ電車なくなるな。」
ロディは、小さく呟いた。
夢のような時間が、終わろうとしている。
…このままじゃ、場所が変わっただけで、お店にいた時と何も変わらないじゃない。
ロディが家に誘ってくれることなんて、もうないかもしれないのに。
私は、緊張が解けていくと同時に、言いようのないもどかしさが心を占めた。
…やっぱり私とロディは“飲み仲間”なんだ。
淡い期待なんて、するだけ無駄だ。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。
…ワイン、ごちそうさま。」
…結局、少ししか飲んでないけど。
私が、そう言ってソファから立ち上がろうとした
その時だった。
ふいに、隣に座っていたロディが手に持っていたグラスを置いて
ソファに置いていた私の手に、大きな手を重ねた。
…!
ロディ……?
私が、動きを止めた瞬間
ロディは、ゆっくりと指を絡めた。
彼の体温が、指の先から伝わってくる。
私の心臓が再び鳴り出した、その時
ロディが、耳元で甘く囁いた。
「……帰んの?」
…!
甘い熱が、全身を包んだ。
疑問形の言葉とは裏腹に、ロディは私の手を離さない。
どうして、私に聞くの…?
そんなことを聞かれたら、心が揺れるに決まってるのに。
私は無意識のうちに、ロディの手を握り返していた。
私の中の何かが、動いた気がした。
トン…。
ロディに寄りかかると、彼は少しの沈黙の後
絡める指に力を込めながら口を開いた。
「…酔ったのか?」
…。
ずるい質問。
お互いお酒に強いのも、今日は酔う量のお酒を飲んでいないのも知っているくせに。
「…うん。」
そのずるい質問に乗ってしまう私も、十分ずるい。
もう、私を支えている彼から離れられないほど
私は、心の奥底から溢れる熱に抗えなかった。
しぃん、と部屋が静まり返る。
街を、夜のとばりが包んでいる。
「…俺も。」
彼の熱を帯びた声が私の耳に届いた時には
彼はすでに私の唇を奪っていた。