イケメン小説家は世を忍ぶ
ああ……私が邪魔して桜の木が見えないのか?

「すみません。今どきます」

ペコリと頭を下げながら桜井先生の視界に入らないよう脇に動いたが、またもや怒られた。

「動くなって言ってるだろ!」

「ええ~?」

何がいけないの?

「さっきみたいにずっと桜の木を見てろ」

溜め息交じりの声で桜井先生が私に指示を出す。言われるまま、また桜の木に向き直ってじっと桜を眺める。

桜井先生って画家じゃなくて小説家のはずなんだけどな。

何を真剣に描いてるの?

知らない間にスケッチブックまで出して来ちゃって。

彼の趣味に付き合わされるのも私の仕事の内に入るっていうのだろうか?

伯父さんじゃないから馬鹿にされているような気がする。

でも、ここで文句を言うのはダメだ。
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