イケメン小説家は世を忍ぶ
ちょうど結衣の髪を描いていたら、急に彼女が桜から離れようとして思わず「動くな!」と怒鳴った。

「え?」

ぼんやりした目で俺を見る結衣。

何を勘違いしたのか、動くなと言ったのに俺の視界から外れようとする。

「すみません。今どきます」

「動くなって言ってるだろ!」

ギロッと一睨みして結衣を注意する。

鈍いというか、間が悪いというか……。

「ええ~?」

それでもわからないといった顔でおろおろする彼女。

「さっきみたいにずっと桜の木を見てろ」

溜め息交じりの声でそう言うと、結衣は言われるままじっと垂れ桜を眺める。

そんな彼女を素早くスケッチした。

「もういいぞ」と結衣に声をかけると、彼女は俺の元にやって来てスケッチブックを覗き込む。

「実物よりよく描けてるだろ?」
< 51 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop