イケメン小説家は世を忍ぶ
ニヤリとしながら結衣に顔を近づけてからかうと、驚いた彼女は変な声を出して大きく仰け反る。

俺が顔を近づけただけでそんな反応するなんて、どれだけ男に免疫がないのか……。

「さ、桜井先生、心臓に悪いので急に顔を近づけるの止めてもらえませんか?」

結衣が激しく狼狽えて俺と距離を取ろうとするが、俺は彼女を冷やかして子供のような悪戯をした。

結衣の鼻を軽く噛んだのだ。

俺の予想通り、彼女は酷く驚いた。

「その控え目な鼻を高くしてやろうと思ってな」

悪びれた様子も見せずにそう言い放つと、結衣は俺を睨み付けて怒った。

「大きなお世話です!」

怒りに満ちた結衣の顔を見て思う。

怒らせてしまったが、俺は彼女の生き生きとしたこの目を見たかったんだと……。

日本に来てから自分は生に対して無欲になっていた。
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