俺に彼女ができないのはお前のせいだ!


横引きの扉を開けると、よく分からない機械と細い管に囲まれた親父の姿があった。



「おお、良一か」


「うん」



親父は俺を見て、弱々しく微笑む。


俺の緊張感はさらに増していく。



こんな弱ってるヤツにテスト結果を伝えるのは申し訳ない。


怒らせたら病状がもっと悪くなるかもしれないし。



「こんな姿、息子に……見せるのは、情けない、な」



まだ意識が戻ってあまり経っていないせいか、たどたどしい口調。



一命はとりとめたものの、


再発する可能性も、後遺症が残る可能性も、どちらも高いらしい。



「早く仕事にも、復帰したいんだけどな」


「こういう時しか休める機会ないでしょ。ゆっくりすれば?」


「いや、部下にまかせっきりなのは、心配だし、俺自身が許せない」



力強い目でそう言い切った親父。


人にはもちろん、自分にも厳しい性格だからこそ、具合が悪くなっても仕事を優先してすぐ病院に行かなかったんだ。



完璧主義者のくせに。こういうところはバカだ。



「俺、この前、尾家さんって人と話したよ。親父のことすげー尊敬してるみたいだった」


「そうか。あいつも、成長してるからなぁ。まあ、頑張ってはいるが、抜け漏れが多くて、こっちも大変だけどな」



緊張感と合わせて、違和感も生じていく。



気持ちを落ち着かせながら、「へぇ」と相槌を打つと、


親父は「お前と、ちょっと似てるかもな」とつぶやいた。



その優しい声に反応するように、はっと俺は顔を上げた。


親父はひきつらせるように口角を上げて笑っていた。



「…………」



――誰だ、お前は。


本当に俺の親父か?



普段の厳しい親父を見慣れているせいか、そう思ってしまう。


緊張感と違和感が、いら立ちへと変換されていった。


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