俺に彼女ができないのはお前のせいだ!
「お前が、中途半端なヤツにならないよう、俺だって工夫してきたんたぞ」
「……だからいつも俺に厳しくあたってたの?」
「はは。厳しく、しすぎたか? まあ、よく部下にも飲み会で、柳井さんは感情が分かりづらい、などと時々言われるからな。すまんなぁ」
俺は親父に嫌われているわけではない。
むしろ、俺のことをよく見てくれていたのか?
穏やかな声を発する親父をにらむように見つめていたはずなのに。
瞳をおおう膜が次第に厚みを増していき、その姿は揺らいでいった。
急いで顔をそらし、赤みを帯びていく空に視線を移した。
「じゃあ、そろそろ……」
耐えられず、俺は病室から去ろうとしたが。
「良一」
背中に語りかけられた声は、重かった。
「お前は、もしかしたら、柳井家ただ1人の男になるかもしれない。お前なら、裕子と母さんのこと、支えること、できる。だから……よろしくな」
うるせーよ。
お前、マジで死ぬ気なの?
そんなんなるくらいだったら、ずっと俺の前で、届きそうで届かない壁を作り続けてくれよ。
そんなに簡単に、俺に家族のことを託すなよ。
そんなに簡単に、俺のことを認めるなよ。このクソ親父。
「……また来る」
涙は出なかった。
たぶん、怒りがわいてきたから。
結局、それが親父とかわした最後の言葉になったのだけど。