俺に彼女ができないのはお前のせいだ!


夜も遅くなり、いろいろと落ち着いた頃。


彼女――アリサは何かを言いたげな表情で俺を見つめていた。


親父が倒れてから、アリサとまともに会話をしていない。



キリッとした表情の遺影の下にあるのは、白い布に包まれた棺桶だった。



「…………」



俺は端についている取っ手に手をかけていた。



小さな扉を開けると、親父の顔が視界に飛び込んできた。


遺影とは違い、目を閉じた穏やかな表情のまま固まっている。



厳しい顔で俺を説教する姿。


最後に向けてきた優しい声、表情。



目の前の親父は、二度と動くことはない。


体という物体はまだあるが、そこに意志はもう宿っていない。



『死』という一文字が、血に溶け込んだかのように全身をめぐっていく。



一気に実感となって心臓を突き刺してくる。



「うっ……」



吐き気がしそうになった。


幸いなことに、まわりの人は誰かとしゃべったり、座布団の片づけをしたりしている。



……アリサ以外は。



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