今夜、愛してると囁いて。
「香澄?香澄って……本当に?」
小上がり席からひょこっと顔を覗かせたのは、懐かしい顔だった。
別れて、会わなくなってからもう何年も経っているのに全く変わらない。
「……久し、ぶり。飲みに来てたんだ?」
「そうそう、同僚と飲んでたんだけど、潰れたからタクシーに押し込んできた」
健人はあたしに手招きをして近くにくるように促す。
あたしは口元が引きつりそうになるのをぐっとこらえて、重たい足でそちらに向かう。
「ちょうど一人になったところだから、一緒にどう?」
「……いや、あたしは」
いい、と断ろうとすれば変に気を利かせたおばさんが健人の座る小上がり席にあたしの分のおしぼりとお通しを持ってきてしまった。
恐らく、あたしと健人がとっくの昔に別れていることを彼女は知らない。