今夜、愛してると囁いて。
「……お邪魔します」
なんとなく断りづらい雰囲気になって、あたしは諦めて靴を脱いで小上がり席にお邪魔することにした。
「香澄ちゃん、最初はいつものでいい?」
「あ、はい。お願いします」
常連だったのは何年も前のことなのに、おばさんはあたしがここに来た時最初に必ずシャンディガフを飲むことを覚えてくれていたらしい。
すぐに出てきたそのジョッキを手に取れば、冷たさが手のひらいっぱいに広がって目を細めた。
「はい乾杯」
「か、乾杯……」
中身が半分以下になったビールジョッキを健人は掲げてきて、ぎこちなくあたしはそれに自分のジョッキを当てた。
キン、とガラス同士がぶつかる音の余韻を聞きながら、ジョッキに口をつける。
お酒って、こんなに苦かったっけ。
しばらく飲んでいなかったから、やけにお酒の味が濃く感じる。