今夜、愛してると囁いて。
「おばさん、日本酒ください」
あたしはジョッキの中身を無意識にグイグイ飲んでいたらしく、おばさんが空のジョッキを回収しにくる。
「冷でいいかしら?」
「うん。2合で。おちょこは一つでいい」
健人の言葉は無視して、あたしは割り箸を割ってお通しの小さな皿を掴んで豆腐をつつく。
まぶされたかつお節の香りが立ち込めてお腹がぐぅ、と鳴る。
「健人」
「うん」
昔と同じように名前を呼べば健人は何かを期待したように顔を上げるけれど、あたしはそれをたった一言で悲しみに染め上げた。
「あたし達、もう昔みたいには戻れないよ」
これ以上、手軽な都合の良い女にはならない。
そう決意を込めて、運ばれてきた冷酒を半ばやけくそに飲んだ。