甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
(10) 自覚した恋心

 本棚につもったほこりにハタキをかけながら、フィーネはちらりと
 ユアンを見る。

 自室のデスクの前に座ったユアンは、机の上に白い紙と、
 古い海洋地図を広げ、難しい顔で腕組みをしている。

 神話を題材にした戯曲は書き終え、今度は海賊が出てくるお話に
 とりかかるらしい。

 洗いざらしのシャツにベストを引っ掛けただけの姿は、昨晩の華やかな
 ミルズ男爵の姿とは違うけれど、眉間に皺をよせていても、魅力的な顔立ち
 は変わらない。

 デスクに置かれた地図を見つめて少し俯いているせいで、額にかかる髪が、
 なめらかな白い頬に影をおとし、整った横顔に憂いに満ちた陰影を与えている

 

 昨晩フィーネは眠れないまま、ユアンがなぜ人を騙すようなことをするのか
 嘘をつくことをどう思っているのか、いろいろ考えたけど、結局
 よくはわからなかった。

 そして最後にフィーネの頭のなかに残ったのは、なぜ、自分はこんなにも
 落ち込んでいるのか、という疑問だ。

 落ち込む必要などどこにもないのに。

 一晩たって朝をむかえても、もやもやした気持ちは胸の中。

 だから何をしていても、ついそのことを考えてしまう。

 本棚のほこりを払っていても、心がふらふらと彷徨いだして、フィーネは
 無意識にただ腕を上下させているだけだ。

 なぜ? と自分に問う。

 自分がユアンに釣り合う美人じゃないということはわかりきっているから
 べつにプライドが傷ついたわけじゃない。

 なにを言われたところで、本当の夫婦じゃないんだから気にする必要はない
 のに、こんなに落ち込むなんて、変じゃない?

 まるで本当は夫婦として見られたいみたいだ。

 夫婦だと思われたい? 妻として認められたい?

 彼の隣にいるのは自分だとみんなに言いたい?。
 
 誰よりも近くにいたい?、そう、彼の......ユアンのそばに......。
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