甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
通りへでて馬車の都合をつけてくると、ボルドール伯爵は工房あとを
出て行き、一人残されたフィーネは力なく項垂れた。
こんなことになるなんて。
騙されて屋敷も財産もなくし、誘拐されて詐欺の片棒を担ぐことになって
その上、今度は盗人の濡れ衣をきせられて牢に繋がれることになる......。
「私って、ずいぶん罪深い前世を送ったんだわ、きっと」
そうやって冗談にしなければやっていけない気がした。
犯してもいない罪を背負わなければならないのは、まったくもって
不本意だが、罪を逃れるためにはユアンのことを話さなければならない。
でも、真実を話せばユアンが捕まる。
いつの間にか陽は傾き、暮れ色の夕方の日差しが長く窓から差し込んで
くる。
がちゃりと音をたてて工房の扉があき、ボルドール伯爵が戻ってきた。
大股でフィーネに歩み寄った伯爵は、縛った縄をつかみフィーネを乱暴に
立たせようとした、が、その時、
「彼女から手を離してもらえないかな」
そう声がして、工房の入り口に人影が立つ。
窓から差し込む夕日が眩しくて、しゃがんでいるフィーネにはその姿は
見えなかったが、フィーネのそばに立ち、工房の入り口を振り返った
ボルドール伯爵は、呻くような声をあげた。
「お、お前は......」
カツカツと靴音を響かせて、戸口に立った人物がフィーネとボルドール伯爵
に向かって歩いて来る。
眩しい光の中から見えてきたその姿に、フィーネは、あっ、と思わず
驚きの声をもらした。