甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「どうしたんだ?」
血と泥で汚れた少年を膝の上に抱え上げ、泣きそうな顔をしている
フィーネを見て、ユアンは眉をひそめた。
そして、フィーネの説明を聞き、さらに難しい顔になる。
「どうしよう、このままにしておけないわ」
「そうだな」
考え込んだ二人の後ろから
「その子はテグサ織り工房の子だと思うよ」
と遠慮がちな声がした。
斜め前の揚げ菓子屋の店主が、心配そうな顔で覗き込んでいる。
「その工房がどこにあるか、わかりますか?」
そう尋ねたユアンに店主は、ていねいに工房の場所を教えてくれた。
辻馬車を拾い、辿り着いた工房はジャブロウの町の南側にある貧民街
の中にあった。
手入れの行き届いていない粗末な家が十五軒ほど軒を連ねている。
もうそろそろ夕餉の支度の時間なのに、煮炊きの良い匂いがすることもなく
規則正しく機を織る音だけが聞こえてくる。
ちょうど一番手前の家から駆け出してきた少女にわけを話すと、少女はすぐ
家に駆けもどり、母親と年長の兄らしい青年をつれて戻ってきた。
ユアンの背中でぐったりとしている少年を、少女とその兄が家の中へとつれて
いき、それを見送りながら母親がフィーネとユアンに頭をさげる。
「本当ならアルンの親がお礼を言わなきゃいけないんですけど、
父親ははやくに亡くなってるし、母親は一ヶ月もひどい咳が続いて
寝込んでましてね。」
そう説明する少女の母親も顔色が悪い。
「ゴードンの旦那に雇われてるごろつきは、小遣い稼ぎって言ったらしい
けど、アルンは母親に飲ませる薬代を稼ごうとしたんです。
医者のかかるのがいいんだろうけど、そんな余裕はないし、私たち
みんな食べていくのに精一杯で」
そう言って、母親は顔を歪ませた。
汚れた前掛けで目をおさえながら、何度もフィーネとユアンに頭をさげて
家の中にもどっていく姿を、フィーネとユアンはただ言葉もなく見送った。