甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
遠くに見える山の端はまだ明るさがあるものの、群青色の空が
みるみるうちに、夜の濃さを増していく。
日が暮れ、建物の灯りがぽつぽつとつきはじめる町なかを走る馬車の
中はとても静かだった。
ユアンは窓の外を向いたきりなにも言わないし、フィーネもまた胸を塞ぐ
重い気持ちに、口をひらく気にはなれないでいたが、昼間買い物をした
ジャブロウのメインストリートに差しかかったときフィーネはあることを
思いついて、ユアンに話しかけた。
「ね、ユアン、メインストリートには薬屋さんもあったわよね」
突然そう聞いたフィーネに、ユアンは返事はしなかったが、窓の外に向けて
いた視線をフィーネにむける。
「まだお店は開いているかしら、こんな時間はもう閉まってる?」
せまい馬車の中だから、フィーネの声が聞こえていないはずはないのに
質問には答えようとせず、ユアンはフィーネをじっと見ているばかりだ。
「ちょっとだけ、寄り道できない?もし、お店が開いていたら薬を買って
もう一度......」
「薬を買って飲ませても、一時しのぎにしかならない」
フィーネが言い終わらないうちに、突然ユアンがそう言った。
でも、その言葉が酷くそっけなく聞こえてフィーネは納得できず、
もう一度口をひらく。
「でもね、」
「一ヶ月も咳が続いて寝込むようなら、医者に見せるべきだ」
再びフィーネの言葉を遮るように、ユアンが言って会話が途切れる。
確かにユアンの言う通りだろうけど、今すぐできることをフィーネはしたかった。
このまま帰ってしまう気持ちにはなれなかったから。
「ユアンの言う通りだと思うわ、でも、薬を見たらアルンが喜ぶと
思うの。薬のために、またすぐ無茶をしそうだもの」
「受け入れるべきだ」
ユアンの言葉の意味がわからず、フィーネは目を瞬かせた。